現在は陶磁器販売や不動産賃貸を手掛け埼玉県内最古とされる企業「戸谷八商店」(本庄市中央1)の歴史を紹介する「本庄まちゼミ」が2月2日・12日、行われた。
「まちゼミ」は、街の各店舗の店主が講師となり、蓄積された専門知識やノウハウを少人数制のゼミ形式で伝えるコミュニケーションの形。2002年に愛知県岡崎市で始まり、地域活性化を後押しする事業として、全国規模の広がりを見せている。
同社の戸谷充宏社長が行う講座名は「老舗15代目が語る中山道本庄宿 埼玉県最古企業・戸谷八商店の歴史建物見学」。江戸期に使われた屋号の入った葛籠(つづらかご)や戸谷家の敷地内にある1652年創建の「戸谷八稲荷」などを約1時間にわたり見学した。
同社は1560年創業。戸谷家の第15代当主である戸谷さんは「元々、戸谷家は上州・世良田に住む新田義貞の家臣だった。約460年前、先祖が本庄に来た頃、実業家・諸井寛一の先祖も移住し共に本庄宿を開発。その仲間は『花の木十八軒』と呼ばれた」と話す。
関東最悪の紛争地帯を100年以上にわたって生きてきた「花の木18軒」の先祖たちだが、「諸井家」「五十嵐家」「戸谷家」は共に闘うことに疲れ果て、百姓として生きることを決意したという。名前を「戸谷隼人」は「戸谷八郎左衛門」に、「諸井監物」は「諸井伝左衛門」に、「五十嵐大善」は「五十嵐太郎右衛門」に改名した。
初代当主、戸谷八郎左衛門が本庄に移住したのは1560年だったという記録が本庄市史に残っている。諸井寛一は秩父セメント3代目社長で旧日経連の初代会長も務めた。
11代目戸谷八郎左衛門は「資本主義の父」といわれた渋沢栄一の影響を受け、本庄商業銀行など10社以上の会社の設立に関わった。12代目戸谷間四郎は、「十間通り」の開通、東本庄~伊勢崎~大胡(おおご)を通る鉄道(上毛電気鉄道)の誘致など都市基盤整備に尽力し、本庄駅前に円形派出所(交番)も寄付した。上毛電気鉄道は実現せず「幻の本庄線」になったという。
戸谷家には資本主義の父・渋沢栄一からもらったという書がある。そこには、中国の詩人・陶淵明の「四時歌」の起句「春水満四澤(しゅんすいしたくにみつ)」が書かれている。春の水は四方の沢にあふれて豊かである、という意味。